〔口訳〕 大体、女の風姿といふものは、若年の演者の嗜みに似合ふものである。しかしながら、女体の風姿といふものは、中々容易でない。先づ第一に、其のいでたちが見ぐるしい時には、全く見られたものではない。
女御や更衣などの高貴な婦人に扮する事は、容易にさうした上﨟の御挙動を見る事はないから、これは十分に伺ひ尋ねてやらねばならない。衣や袴の着様なども、さういふ上﨟には昔から定まつてゐる方式があるものだから、よくよく尋ねなくてはいけない。
世間普通の女の風体は、常に見なれてゐる事だから、それに扮する事は実際容易であらう。ただ、衣小袖のいでたち、大体の姿など、相当に風趣があればよい。曲舞や白拍子、又は物狂ひなどの女に扮するには、扇でも、かざしでも、いかにも弱々と、持つか持たぬかわからぬ位に、しなやかに持つが良い。着物や袴なども、長々とふくよかに、足のかくれる程に着け、腰膝はかがまぬやうに、そして身体全体はしなやかでなくてはならない。顔の持ちやうは、仰向き加減であると容貌が悪く見え、又俯向いては、後姿が見にくい。又頸持ちの工合が強いと女らしく見えない。又なるだけ袖の長い着物を着るやうにして、手先をも見せないやうにしなくてはいけない。
かやうなわけで、いでたちを十分に嗜み研究せよといふのは、結局その風姿風情を良く見せようが為である。如何なる物真似でも、いでたちが悪くては良い筈はないのだが、特別に女体の風姿は、いでたちといふことを以て根本とするものである。