風姿花伝第四、神儀云
 申楽神代の初まり
 仏在所には
 日本国に於ては
 平の都にしては
 当代に於て

風姿花伝第五、奥儀云
 一 序・風姿花伝の謂れ
 二 和州・江州・田楽の風体
 三 一座建立の寿福・衆人の愛敬
 四 寿福増長に対する戒

風姿花伝第六、花修云
 一 能の本を書く事
 二 作者の思ひ分くべき事
 三 強き・幽玄・弱き・荒きの別
 四 能と為手の位との相応

花伝書別紙口伝
 一 花を知る事
 二 細かなる口伝
 三 物真似に似せぬ位
 四 能に十体を得べき事
 五 能によろづ用心を持つべき事
 六 秘する花を知る事
 七 因果の花を知る事
 八 能の善き悪き
 九 一代一人の相伝

 

 

 

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風姿花伝第一、年来稽古条々 七歳

此芸に於て、大方七歳を以て初とす。この比の能の稽古、必ずその者自然と為出す事に、得たる風体あるべし。舞働きの間、音曲、若は怒れる事なんどにてもあれ、風度為出さん懸かりを、先打任せて、心の儘に為さすべし。さのみに、善き悪しきとは、教うべからず。余りに太く諫むれば、童は、気を失いて、能も懶く成りたちぬれば、即て能は止まる也。唯、音曲働き舞なんどならでは、為さすべからず。さのみの物真似は、仮令為べくとも、教ふまじきなり。大場なんどの脇の申楽には、立つべからず。三番四番の時分の、宜からんずるに、得たらん風体を為さすべし。

 

〔口訳〕 此の芸に於ては、大体七歳を以て稽古の初とする。この七歳頃の能の稽古では、其の子供が、ひとりでやり出したことの中に、きつと、どこかに得意な良い所があるものである。それが、舞や働きの中に、或は音曲の中に、或は鬼能の如き怒れる風体の中にといふ風に、どこにあつても良いから、自然に子供がやり出す風情ある芸を先づそのままに放任して、子供の思ひのままにやらせるが良い。それを、善いだの悪いだのと、さう手を入れて教へるのはいけない。あまりひどく教訓すると、子供は折角の意気も沮喪して、能の興味を失ひ、いや気がさしてしまふと、そのまま能の進歩は止つてしまふものだ。ただ心すべき事は、子供には音曲か舞か働きかでなくては、やらせてはいけない。相当手のこんだ物真似などは、たとひその子供が出来るにしても、教へてはいけない。又、出演に際しても、晴れの舞台の脇能などを演じさせてはいけない。三番目か四番目の、丁度適当と思はれるやうな時機に、その子供の得意な芸を演じさせるが良い。

 

〔評〕 最初の間は当人の得意な所を、気のむくままにやらせて置く、といふ教へ方は面白い。そこに子供相当の興味と元気が生れ、従つて進歩もあるわけである。これに教訓をひどく加へると、嫌気がさし、嫌気がさせば、進歩が止まるといふのも、子供の心理をよく見ぬいてゐる。物真似を教へないのは、先づ、舞歌幽玄の素地を、子供時代に固める必要がある為めで、至花道書の二曲三体の条を参照すべきであらう。又大場の脇能に出しては良くないといふも、脇能の性質が、子供の演能に適しない為めであると思はれる。

 

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